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2017.06.23

米国防総省の報告に見る中国の脅威

米国防総省の報告に見る中国の脅威   
  櫻井よしこ

米国防総省が6月6日、「中国の軍事情勢」に関する年次報告書を発表し た。海洋、宇宙、核、サイバー空間の4分野を軍事戦略の要として、中国 が世界最強の国を目指して歩み続ける姿を描き、警告を発している。
 
報告書は、中国の目標が米国優位の現状を打ち砕くことだと分析し、その ために中国は、サイバー攻撃によって、軍事技術をはじめ自国で必要とす る広範な技術の窃取を行い、知的財産盗取を目的とする外国企業への投資 や、中国人による民間企業での技術の盗み取りなどを続けていると、驚く ほど率直に告発している。
 
この件に関して興味深い統計がある。中国政府は長年、経済発展を支える イノベーション重視政策を掲げてきた。2001年から複数回の5か年計画を 策定し、研究開発費をGDP比で20年までに2・5%に引き上げようとして きた。だが、目標は一度も達成されていない。理由は、彼らが必要な知的 財産を常に他国から盗み取ることで目的を達成してきたために、自ら研究 開発する風土がないからだとされている。
 
ただ、どのような手段で技術を入手したかは別にして、中国が尋常ならざ る戦力を構築しているのは明らかだ。中国は世界で初めて宇宙軍を創設し た国だ。米国家情報長官のダニエル・コーツ氏は今年5月、「世界の脅威 評価」で、ロシアと中国はアメリカの衛星を標的とする兵器システム構築 を宇宙戦争時代の重要戦略とするだろうと報告している。
 
15年末に、中国は「戦略支援部隊」を創設したが、それはサイバー空間と 宇宙とにおける中国の軍事的優位を勝ち取るための部隊だと分析されている。
 
国防総省の報告書は、中国を宇宙全体の支配者へと押し上げかねない量 子衛星の打ち上げに関しても言及しているのだ。

大中華帝国の創造

昨年、中国は宇宙ロケットを22回打ち上げ、21回成功した。そのひとつ が世界初の量子科学実験衛星の打ち上げだった。量子通信は盗聴や暗号の 解読がほぼ困難な極めて高い安全性が保証される通信である。「仮に通信 傍受を試みたり、通信内容を書き換えようとすると、通信内容自体が?崩 壊?する。理論的にハッキングはまず不可能」(産経ニュース16年9月3 日)だと解説されている。
 
量子衛星打ち上げの成功で、地球を包み込んでいる広大な宇宙を舞台にし た交信では、どの国も中国の通信を傍受できないのである。
 
中国は07年に地上発射のミサイルで高度860!)の自国の古い気象衛星を破 壊してみせた。攻撃能力を世界に知らしめたのだ。衛星破壊をはじめとす る中国の攻撃の狙いは、「敵の目と耳を利かなくする」こと。違法なハッ キングで世界中の技術を盗んできた中国が、選りに選って絶対にハッキン グされない技術を持てば、世界を支配する危険性さえ現実化する。
 
中国は現在独自の宇宙ステーションを構築中だが、来年には主要なモ ジュールの打ち上げが続く見込みだ。東京五輪の2年後には、中国だけの 宇宙ステーションが完成すると見られる。さらに、中国は月に基地をつく る計画で、月基地の完成は27年頃と発表されている。習近平氏の「中国の 夢」は、21世紀の中華思想の確立であり、宇宙にまで版図を広げる大中華 帝国の創造ではないのか。
 
中国の遠大な野望の第一歩は、台湾の併合である。その台湾に、国防総省 報告は多くの頁を割いた。「台湾有事のための戦力近代化」(Force Modernization for a Taiwan Contingency)という章題自体が、十分注目 に値する強いタイトルだ。付録として中国と台湾の戦力比較が3頁も続い ている。
 
台湾と中国の軍事力は比較にならない。中国の優位は明らかであり、将来 も楽観できない。たとえば現在、台湾は21万5000人規模の軍隊を有する が、2年後には全員志願兵からなる17万5000人規模の軍隊を目指してい る。しかし、この縮小した規模も志願兵不足で達成できないだろうと見ら れている。他方、中国は台湾海峡だけで19万人の軍を配備しており、人民 解放軍全体で見れば230万人の大軍隊である。
 
台湾、南シナ海、そして東シナ海を念頭に、中国は非軍事分野での戦力、 具体的にはコーストガード(海警局)や海上民兵隊の増強にも力を入れて きた。
 
10年以降、中国のコーストガードは1000!)以上の大型船を60隻から130隻 に増やした。新造船はすべて大型化し、1万?を優に超える船が少なくと も10隻ある。大型船はヘリ搭載機能、高圧放水銃、30!)から76!)砲を備え ており、軍艦並みの機能を有し、長期間の海上展開にも耐えられる。
 
ちなみに1000!)以上の大型船を130隻も持つコーストガードは世界で中国 だけだと、国防総省報告は指摘する。海警局は、もはや海軍そのものだ。

ローテクの海上民兵隊
 
海警局とは別に海上民兵隊も能力と規模の強化・拡大を続けている。事態 を戦争にまで悪化させずに、軍隊と同じ効果を発揮して、海や島を奪うの が海上民兵隊である。
 
彼らは人民解放軍海軍と一体化して、ベトナムやフィリピンを恫喝する。 16年夏には日本の尖閣諸島周辺にまで押し寄せた。国防総省報告は、この 海上民兵隊に重要な変化が表れていることを指摘する。かつて海上民兵隊 は漁民や船会社から船を賃借していた。それがいま、南シナ海に面する海 南省が、84隻にも上る大型船を海上民兵隊用として発注した。独自の船を 大量に建造しているのだ。
 
海上民兵隊は南シナ海を越えて尖閣諸島や東シナ海、さらには小笠原諸 島、太平洋海域にも侵出してくる。
 
宇宙軍と量子衛星、そして海上民兵隊。ハイテク戦力とローテク戦力を併 せ持つ中国が世界を睥睨しているのである。サイバー時代においては、先 に攻撃する側が100%勝つのである。その時代に、専守防衛では日本は自 国を守れないであろう。
 
日米同盟はいまや、責任分担論が強調される。アメリカはかつてのアメリ カとは異なる。国家基本問題研究所の太田文雄氏が問うた。

「仮にアメリカのトランプ政権が、?ハイテクの宇宙・サイバー空間にお ける脅威はアメリカが対処する。そこで責任分担で、ローテクの海上民兵 隊には日本が対応してほしい?と言ってきたら、わが国はどうするので しょうか」
 
日本を守る力は結局、日本が持っていなければ、国民も国土も守りきれな い。そのような事態が近い将来起きることは十分にあり得るのだ。
 
折りしも安倍晋三首相が自民党総裁として憲法改正論議に一石を投じた。 この機会をとらえて、危機にまともに対処できる国に生れかわるべきだ。

『週刊新潮』 2017年6月22日号 日本ルネッサンス 第758回

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